超AI入門(発刊:2019年2月)

サブタイトル ディープラーニングはどこまで進化するのか
著者 松尾 豊/NHK「人間ってナンだ?超AI入門」制作班【編著】

(松尾氏プロフィール:東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター / 技術経営戦略学専攻 教授、東京大学工学部システム創成学科知能社会システム(PSI)コース長)

出版社(定価【税別】) NHK出版(1,200円)
AI(Artificial Intelligence)という言葉はすっかり耳になじんでしまったが、なかなかその内容を理解する人は少ない。「人工知能」という訳語が当てはめられても、なんだか分かったような、分からないようなところがある。「AIが将棋で人間のプロの棋士を打ち負かしてしまった」と言われると、「そうか、AIはとうとう人間のレベルに達したのか」と感心したりするが、直接自分との関係では、便利な賢いコンピュータ付きの電化製品が出現したぐらいにしか感じない人がいる一方、そのうち人間はAIに仕事を奪われたり、支配されたりするのでは、と漠然と不安がったりする人もいる。

実際は、ぼんやりしている人々が思っている以上にAIはすでに我々の現実社会へ組み込まれていて、産業革命と見なせる勢いで産業や社会構造自体を変化させ始めているし、逆に人間の知能以上の能力でAIが取って代わる領域は限られている。

現在AIがどのように社会を変えていくかを知るためには、AIそのものがどういう思考方法(アルゴリズム)で形成されているのかを知ることが本質を見誤らないためには必要であろう。

周知のように、AIはコンピュータである。さらに正確には、コンピュータで動くソフトであるといっても間違いではない。では、なぜコンピュータ(電子計算機)ではなく、人工知能と呼ぶのであろうか。

私は国産の大型電子計算機が初めて登場した頃からの電子計算機の利用者であったが、その登場前には手回しや電動の計算機を使って科学技術の計算(乗除算が主体だが)をしていた。電動計算機は高価で研究室に1台しか無く、皆の奪い合いであった。初めてカシオの電卓が個人で購入できる価格で登場し、科学技術計算が楽になった時は感動したものである。複雑な計算や大量の計算をするには大型計算機を使用することが必要であったが、特にフォートラン(FORTRAN)という言語を使ってプログラミングを行なえば、人間では処理し切れない量の計算を可能にしてくれた。数式モデルを作り、プログラムさえバグがなければ、計算機の中で自然現象を再現(シミュレート)することすらできた。この時点では、コンピュータは人間ではなし得ない速度で誤りなく計算と論理処理を行う、という文字通りの電子計算機だったのである。一方すでにそのころから、より自然言語に近いコボル(COBOL)というプログラム言語は普及しはじめており、事務処理に活躍していたが、人間が与えたプログラムに応じて情報を処理するという意味においては電子計算機であることに変わりはない。

AIと呼ぶにふさわしい発展をコンピュータ技術が遂げたのは、人間の脳の働きを模したニューラルネットワークに自己学習をさせる方法を採り入れるようになったこと、それを何層にも渡るニューラルネットワークによる学習法(ディープラーニング)を採り入れてからであろう。本書は、そのディープラーニングの考え方をでき得る限り簡単に解説することを試みている。

中でも、「脳とAI、違いはどこにあるのか」「AIは芸術作品を生み出せるのか」「AIの画像認識で暮らしはどう変わるのか」「AIは人間と融合するのか」などの章は、読者の疑問に直接対応しているのではないか。

本書は実はテレビの講義番組から生まれたものであり、一般的に理解されやすい形式で書かれているので、まさに「超」AI入門と呼ぶにふさわしい書である。(西池氏裕)