スタンシステム株式会社は、LPガス事業を営む株式会社スタンのシステム部門が1982年に分社化され、設立されました。日本で13番目のIBM特約店としてコンピュータの販売を始めて以降、今では県内有数のITベンダーにまで成長を続けてきており、社内や顧客情報の一元化・可視化を支援する統合システム「Scope」をはじめとして、さまざまなITソリューションを提供しています。徳島経済研究所が事務局を務める「徳島IoT活用研究会」には、2016年12月の発足当初から加入しています。
第2回の本研究会(2017年3月開催)の講演では、低消費電流・長距離・狭帯域・小規模データ伝送というIoT向けの無線通信LPWA(Low Power Wide Area)の1つで、無免許で利用可能な「LoRaWAN」について紹介されました。この研究会に出席した同社では、スタンでのLPガス事業の検針についてこの通信を利用して自動化したいと考え、2017年9月より実証実験に乗り出しています。
この取り組みには、LPガスメーターなど専用機器が大きく関係することもあり、愛知時計電機、STNet、大井電気、日本IBM、菱電商事の協力を得ています。具体的には、LPガス向け通信管理デバイス(NCU:Network Control Unit)の開発、LoRaWANゲートウェイの設置やシステム全般の開発などを進め、県内4ヵ所にゲートウェイを設置し、20ヵ所の自動検針からスタートしました。毎日1回定時に残量が発信されるようになり、従来の目視による検針を自動化できることがわかりました。また、「長期間不在にしているが元栓を閉め忘れた」とユーザーから連絡が入ったときなど、ガス供給を遮断することが必要になった場合には、このシステムにより人手を掛けずに対応することもできます。さらには、配送車両にLoRaWAN対応のGPSトラッカーを装着し、移動経路データの可視化、蓄積もこの実験の中で始められています。こうした一連の取り組みについては、昨年2月に徳島経済研究所が開催した「徳島IoT活用シンポジウム」などでも同社社長の眞鍋厚氏から発表されました。
2018年度には、この実証実験が拡張されています。まず、上記のNCUの設置を増やし、約95ヵ所に取り付けて運用しています。LoRaWANゲートウェイの設置も、4ヵ所から5ヵ所に増やしています。そのうちの1つは屋内に取り付けられていますが、しっかりと稼働しています。
注目すべき新たな取組として、大口ユーザーに設置されている「バルクタンク」でも同様の実験を始めたことが挙げられます。工場やビルなどLPガスを大量に消費する施設に設置されるバルクタンクの残量チェックは、人手をかけてほぼ毎日行われているのが現状です。そこで、超音波式の液面計をタンクの底に設置し、NCUを通じて残量を自動発信する仕組みを構築しました。
以上の実証実験を通じて、さまざまな成果が得られたとともに、今後取り組んでいく課題も浮き彫りになってきました。
まず、成果としては、
①LPガス自動検針用の通信としてLoRaWANは実用可能。
②定時・自動のデータ収集、および、リアルタイムでのデータ収集が可能。
③セキュリティデータの自動収集による保安管理(例:ガス漏れの察知)や、設置データによるLPガス設備のトレーサビリティ管理も可能。
④大口需要家設備(バルクタンクなど)のモニタリングにも効果的。
⑤共同開発したNCUについては、LoRaWANによる1日1回の残量データの発信(上り)を主にした場合、リチウム電池の使用では12年間電池交換せずに稼働できる設計であること。ガスメーター本体の耐用年数は約10年であり、メンテナンスの手間が非常に少ない。
⑥移動を把握するGPSトラッカーもLoRaWANで対応可能。
などが挙げられます。
一方、今後取り組んでいく課題しては、
①LoRaWANゲートウェイ1基当たりのサポート可能なNCU台数などデバイス数の追求。(1,000以上は見込まれる。そうなると、NCU1台当たりの通信コストは1円/月レベルにまで抑えられる。)
②デバイスの電池寿命を大きく損なわない範囲でのLoRaWANの効果的な下り通信技術の検討。
③本格運用時の可用性、および、セキュリティ性を高める仕組みの検討。
④多様なデバイスの製作や低価格化の検討。
⑤LPガスユーザーや地域サービスなどとの連動の検討。(例:個人ユーザーの健康見守り、地域の防犯・防災など)
⑥業務車両の移動データなどを活用した最適配送計画の自動作成へのチャレンジ。
などです。特に、④「多様なデバイスの製作や低価格化」については、多目的で容易に活用できるLoRa_IoTデバイスの開発を目指しています。具体的には、県外のITベンダーと協力して、安価かつはん用的に利用されているマイコンボード「Raspberry Pi」をベースとした開発を進めており、⑤の広範なサービスの展開につなげていきたいと考えています。
ガス、水道などのメーター検針の自動化やこれから派生するさまざまなサービスについては、今後のIoTの分野において多種多様なアイデア、仕組みが提案されてくると思われます。徳島経済研究所としても、「徳島発IoT」の創出に向け、しっかりとバックアップしていきます。(2019.1.8記)